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所長 弥冨拓海のコラム「人材の定着と実力昇給」
高い給料さえ出せば優れた人材がいつでも採用できるのでしょうか。それは大変難しい話です。企業にとって人材とは時間をかけて我慢強く育てた逸材のことであり、実力に相応しい活躍で期待に答えてくれる社員のことだからです。
多くの企業がよりよい人材を育て、ぞんぶんに活躍してもらうために4月に給与改定を実施します。その内訳は①給与規程に定められた実力昇給と②その年の企業業績や物価動向等を考慮し、妥当な金額を給与に上乗せするベースアップであり、二つを併せて「賃上げ」と表現されます。しかし定期昇給(定昇)とベースアップ(ベア)では役割が異なります。

「定昇であれベアであれ、定期的な給与改定など考えられない。春闘とか賃上げなんて大企業の話だ」。真顔でおっしゃる社長もおられました。本当にそれで良いのでしようか。
確かに物価は安定していますから、ベースアップについては据え置きで良いでしょう。しかし、「もっと良い仕事がしたい」と前向きに考えている社員の実力昇給まで止めて、モチベーションを維持できるのでしょうか。
会社が実力昇給を放棄すると言うことは、給料分という言葉どおり、クビにならずにすむ程度の成果しか社員に期待しないと言う事です。
大企業であれ、中小企業であれ、会社の将来のために人材を大切に育てたいとのぞむのであれば、実力昇給だけは実施しなければなりません。
なぜなら、この会社が人生を託すに値する企業か、あるいは自分は必要な人材と評価されているか、年ごとの昇給は重要なバロメーターのひとつであり、前向きな社員ほど厳しい目で会社の将来を評価しているのですから。
所長 弥冨拓海のコラム「社員が安心して仕事に専念できる企業しか生き残れない」
極端な成果主義は組織の調和を乱すもと
企業が不況期であっても隆々と発展していくために絶対必要なことがあります。それは一握りの特別社員だけでなく、より多くの社員達に十二分に仕事力を発揮してもらうことであり、それぞれの個性を引き出し、同時に組織として全体の調和をはかるということです。それは社員が安心して仕事に専念できる「納得性の高い評価のルール」「報われたと実感できる賞与配分の仕組み」そして仕事力にふさわしい処遇を実現する「安定した賃金人事制度」が正しく運用されてこそできる話です。
極端な成果主義は組織の調和を乱します。もしも普通の仕事ぶりでは給与は上がらないとなれば、過半数の社員は努力どころか、あきらめて質の高い仕事をしなくなってしまいます。一握りの社員の頑張りだけでは企業の好業績を支えることなどできません。より多くの社員が納得して、それぞれの仕事に励んでこそ総和としての増収増益、好循環は実現します。
ある専門商社での話です。「うちのような小さな商社は人が命です。成果をあげた社員には大商社以上の賞与を払っても惜しくない。スカウトされないためにも凡庸な社員とは年俸で大きな差をつけるのが当然でしょう」と断言する社長がおられました。
事実、好業績でしたから、お気に入りの部長には本人ですら驚くほどの報酬を出しました。別格の処遇に満足して今まで以上に活躍してくれるに違いないと社長は確信していたのですが、期待に反してその部長はそれから1年ほどで理由を告げることなく、目立たないように退職してしまいました。組織としての会社のありように限界を感じ、潮時と判断しての退職だったことが後で分かりました。
一方で給料を大幅に減らされた部長がいました。企業業績はまずまずなのに自分だけ賞与は三分の一、去年の半分の年俸です。さすがに我慢できません。会社には労基法に反する不当な事実がいくつもあると労働基準監督署に内部告発。会社は過去の事実の清算のために監督署からはいくつもの改善命令を受け、社長は想像を超える屈辱を味わいました。成果主義を大げさに掲げ、組織の調和を乱した会社がうまくいったケースなど大企業も含めて、過去に1社もありません。より多くの社員が安心して仕事に専念できる企業しか生き残れないのです。
所長 弥冨拓海のコラム「景気の急降下局面でやってはいけないこと」
景気の急降下局面でやってはいけないこと
CS、ESという言葉があります。CSとはお客様の満足あり、いいものを作ろう、いいサービスを提供しようという会社の誠意がお客さまに伝わってこそできる話です。つまり、一人ひとりの社員が自分の担当している仕事の質を高める努力をし、その努力の総和こそがCS、お客様の満足ということです。
そのためには従業員の仕事の充足感と給料の納得こそ大切です。ESは従業員満足と訳されますが、満足というよりは納得に近いのではないでしょうか。人は満足すると保守的になる傾向があります。必要なのは仕事と給料のバランスであり納得です。
今回の不景気からの回復は、来年までにはムリかもしれませんが、ずっと底這いというよりは、徐々に回復していくことでしょう。とはいうものの、多くの経営者が現段階では受注減、売上減を理由に実力昇給を停止、あるいは大幅なベースダウンを実施したいとお考えかもしれません。しかし、その場しのぎの人件費削減策は従業員の不安をあおり、お客様を裏切る行為を助長しかねないのです。
さらに言えば、せっかく育てた明日の人材がひとりまた一人、会社の将来と不安定な給料に失望し辞めてしまうかもしれないのです。次に来る回復期に対応できる人材を安易に放出してしまうとすれば、明日のわが社を捨てる自殺行為ではないでしょうか。 (つづく)
所長 弥冨拓海のコラム「社長の誤解が問題を複雑にしている!?」 (3)
〔第3回〕 若い社員の給料は高すぎるか?
「若い社員の給料高すぎる」そう真顔で言われた社長がいました。確かにまだなにも経験していない白紙の大卒22歳に、20万円を超える初任給は高すぎるかもしれません。また、高校を卒業したばかりの18歳の少年に16万円という給料も高いといえば高いといえるでしょう。
ただ、若い人の給料には今即戦力として何ができるかだけではなく、将来への投資の要素が含まれていると考えるべきです。5年後のわが社を想像したとき、若い社員たちが企業の発展にふさわしい人材に育っていれば、増収増益の好循環が実現するのです。
もし今欲しいのが単に人手だと言うのならより安い人を採ればいいし、アルバイト、派遣、期間従業員で済む話です。他社が手を出さないような人材を幹部候補生の待遇で採用しておいて、それで給料分仕事してくれないとか高すぎると言うのは本末転倒です。ますます悪循環にはまり込む可能性が高いでしょう。
若く有望な社員を採用するのは将来への投資なのですから、より高い資質のある人を採用し、育てあげる努力をすべきです。その時、決して10万円も20万円も給料を高くする必要はありませんが、他社と比べても見劣りしない給料は必要です。若い人にとっては5千円、6千円の差がすごく魅力的なのです。毎年の昇給についても同じことが言えます。若い社員の初任給および給与改定(評価に応じた査定昇給)は少し高めに設定しなければいけません。
「わが社は3千円程度の昇給が精一杯。若い社員の場合それでも高いと思います。」
これでは若手がヤル気と向上心を高め、優秀な人材に成長していくことなど望めません。22歳の大卒を基本給20万円で採用したとします。期待通りの社員の昇給が仮に毎年3千円だとしたら、10年勤めたとしてもその間給料は3万円増えるだけですから23万円にしかなりません。多くのデータが示す30歳の世間水準は26万円ほどですから、会社が評価している社員の昇給としては低すぎます。将来に不安をおぼえた社員たちはあきれて辞めてしまいます。
そこで、人材不足を中途採用で賄おうと、30歳代半ばの人を30万円で採用するというようなことが行われます。わが社の生え抜き社員の給料は低く抑え、ヨソの仕事のやり方がしみついている人をより高い給料で採用するのだから、実に不合理な話です。将来の投資として新卒社員を20万円で採用し、わが社にふさわしい人材に育て、納得性のある評価制度と賃金制度の下で存分に働いてもらうのと、場当たり的に高い給料で年配者を採るのと、どっちが企業にとって得でしょうか。もちろん、いくら優秀な人材を採っても、育成がなおざりでは、これまた宝の持ち腐れですが。
社員が一丸となって、すべての仕事の品質を高め、お客様からの評価を常に勝ち取れる体制を築き上げたとき、継続的な好循環は実現します。反対に、従業員の仕事への意欲、納得(ES)が得られなくなれば、いとも簡単に好循環は終わり、悪循環が始まるのです。そして、採用初任給や昇給等の給与決定や人材育成への取り組みが、従業員の意欲や納得に直結するものだということを、いま一度思い起こしてください。
所長 弥冨拓海のコラム「社長の誤解が問題を複雑にしている!?」 (2)
〔第2回〕 業種、業態、職種で給与水準はちがって当たり前?
賃金制度は、業種・業態を越えて普遍の部分から判断して基本給を定め、そこからはみ出す特殊・特別な部分は特殊作業手当や特技手当で補えばよいとお話しています。それでも「賃金は職種とか業種によって金額も払い方も相当ちがうはずだ」と納得されない社長が時々いらっしゃいます。
たしかに大変責任の重い、危険負担の大きい、高度な専門性ゆえに通常の人と同じように扱うことはできないプロフェッショナルな仕事があります。現役期間の短い大相撲の力士、野球やサッカー等のプロスポーツ選手がそうです。人の命を預かる医師や航空機のパイロット、巨額の資金を運用するファンドマネージャー等もまた、専門性が非常に高くリスクの負担の大きい仕事です。これらの職種には、その専門性の高さと負担するリスクの大きさに見合った賃金が必要です。
しかし、会社の中の大半の職種には、そこまでの特殊性や特別さはありません。
「わが社では売上を稼ぐ営業担当こそ特別だ」と成果主義に基づく処遇を強調されたのは、まだ30代前半の若い社長でした。しかし今や100年に1度の不景気。これまで優秀だと評価していた営業担当も、期待以上と評価できる人はほとんどいなくなりました。ということは営業が特別だったのではなく、好景気を背景に売れ筋商品を売りまくっていただけかも知れません。プロ契約なら成果が出なければ契約解除もあるでしょうが、正社員である以上、配置換えやOJTをとおして能力開発を図っていく必要があります。
より多くの仕事を経験させたい幹部候補のジョブローテーションや、適材適所の人員配置を積極的に実施するときに、賃金制度が人事異動を妨げるようであってはいけません。
企業には様々な業種があり、職種ごとの違いは確かにあります。ただし、ほとんどの場合、この部門はより高い専門性や責任の重さを担いうる人材を多く必要とする職場なのか、それほど難しくない普通程度の知識と経験であっても人手を多く使わないと成り立たない職場なのかという程度の違いにすぎません。
それを敢えて特別といい、特殊性を認めていくことにあまり意味はないのです。実際、どのような人たちがどのように働いていて、地域や市場の中でどのような立場にある企業かが分かれば賃金を世間水準と比較することは可能です。そして、まず、わが社の社員として、恥ずかしくない賃金水準を維持することに配慮すべきなのです。「20歳代の初めの人にはそれにふさわしい賃金、30歳で結婚してより一層頑張ってくれている人材に報いる賃金水準。そして名古屋では30歳代後半になると自分の家を建てる準備を始める。企業としてそれを応援していける賃金水準。この給料の考え方は決して年功賃金ではないと考えています。」これは、責任等級制の賃金制度を早い時点で導入し、一代で1000億円企業に育て上げたアミューズメント会社の創業会長の言葉です。
わが社にふさわしい人材を選び、仕事を通じて育て上げ、企業業績に貢献して欲しいと考えるのであれば、社長自身がわが社は特殊・特別という考え方から卒業しないといけないのです。
所長 弥冨拓海のコラム「社長の誤解が問題を複雑にしている!?」 (1)
昨年来の経済環境の急変により、企業の賃金人事施策の舵取りも難しさを増しています。賃金制度の見直しを図る経営者も少なくありませんが、時として社長の誤解が問題解決を難しくしているようなケースが見受けられます。
これから3回にわたって、所長 弥富拓海がその解決のポイントをお話しします。
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〔第1回〕 「わが社は特殊・特別だ」というのは本当か?
仕事柄、いろいろな業種、企業規模の経営者にお会いします。お話を聞いていると「当社の業務は特殊性があり独自性の強い会社です。だから、普通の会社とうちはちがうのです」と話される社長が意外と多いのに気付きます。つまり、わが社は特殊・特別ということなのでしょう。しかし、本当に特殊・特別なのでしょうか。
以前、ある病院の院長先生からご相談を受けたときも、特殊・特別であることを強く主張されていました。「病院というのは特殊・特別のかたまりです。医師を筆頭に、看護師、薬剤師、検査技師など、専門資格を持った職員の集合体なので、組織運営も複雑で職員を束ねるのに日々苦労しています。何とか病院の特殊性を考慮した賃金制度を作ってもらえないでしょうか」とのことでした。
そのとき、私ども賃金管理研究所からのアドバイスは次のようなものでした。
「その特殊・特別に目を奪われていたのでは、ちっとも改善は進みません。今までいくら工夫をしてみても、こちらを立てればあちらが立たずで、職員の不満はすこしも解消できなかったはずです。大切なことは仕事の普遍の部分を正しく把握し、そして特殊・特別である部分をどのように加味するかということです。病院といえども、看護師さんも含めて、職種を超えた共通の判断基準、つまり「責任の重さ、仕事の難易度」から賃金を考えるべきです。その上で仕事力を評価し、処遇に結び付けていくことで、安心して働ける職場をつくることができるのです。」
院長先生の予想した答えとはかなり違うものだったかもしれませんが、最終的には院長先生、副理事長、事務長、そしてスタッフ全員がこの提案の趣旨を正しく理解し、新しい賃金人事制度を導入しました。以来30余年、その病院では我流を入れることなく、モチベーションを高める成績評価制度と併せて賃金人事制度を正しく運用されています。現在、その病院は患者様満足度(CS)で最高位と評価されているだけでなく、従業員満足度(ES)も非常に高く、この病院で働きたいと希望する看護師さんのウェイティングリストは1年半先まで埋まっているとのことです。
このようなお話をしても、まだ「わが社と病院では事情が違う」と言われる社長さんもいるかもしれません。しかし法人である以上、経営理念に沿って、企業として”普遍の目的”を言い表すことはさほど難しくないはずです。
「わが社は、品質の高い商品・サービスの提供を通して、お客様に満足していただくとともに地域に貢献できる企業であり続けます。この目標を達成するために、全社員一丸となって常に仕事の品質向上を目指し、お客様のニーズにお応えできる強い社内体制を築き、継続的な好循環を実現します。」
たとえお客様の目にふれないような仕事であっても、その仕事の品質は必ずお客様からの評価に結びついています。社員ひとり一人の仕事力が高まれば、その総和が企業力を高め、結果として増収増益の好循環が実現するのです。賃金人事制度がそうした企業の発展に寄与するものでなければならないことは言うまでもありません。
そのためには、業種や職種の特殊性に目を向ける前に、企業を貫く普遍の理念や価値観をベースとして、組織の中で担当する仕事の責任の重さや仕事の難易度に基づいた人事基準を持つことが大切なのです。
「賃金管理研究会のご紹介」 年3回開催される情報提供と実務確認のための講習会
賃金管理研究所では、特別指導会員制度に入会していただいている会員企業の皆さまへの情報提.供の場として、毎年2月、6月、11月の年3回、賃金管理研究会を開催しています。
この研究会は、各界の第一線で活躍されているゲスト講師による1時間半の特別講演、および賃金管理研究所からの賃金・人事制度の運用に関する情報提供やアドバイスの2部構成で実施おりまして、会員の皆様には無料でご参加いただけます。
2月の研究会は、賃金改定と昇給実務を中心とした内容となります。法令改正に伴う新制度への対応など、4月からの新年度にあわせて労務管理面での情報提供が多くなる時期でもあります。ゲスト講師には、エコノミストや経済の専門家を中心にお招きし、その年の経済見通しや景気動向、業績予測などを中心に講演していただいています。
6月と11月は賞与支給を目前に控え、賞与決定の実務とその前提となる評価実務に関する内容が主になります。会員企業の皆さまから一番多く寄せられる質問が評価に関するものです。そこで賞与決定実務を中心に、評価制度運用のポイントを集中的に解説します。ゲスト講師には、成長企業のリーダーや経営、学術、IT、財務などさまざまな分野から講師をお招きし、講演していただいています。
賃金管理研究会には、北は北海道から南は沖縄まで、全国各地からご参加いただいています。定期的なイベントですので、会員の皆さまと私どもスタッフの交流の場にもなっています。

特別講演には会員の皆さんも熱心に聞き入っていました。
写真は今年2月に東京商工会議所〔国際会議場〕において行われた賃金管理研究会の様子です。ゲスト講師には、日本経済研究センターの飯塚信夫先生にお越しいただきました。2006年の経済動向について大変わかりやすく、また示唆に富むお話を伺うことができ、参加者にもとても好評でした。

お客様の質問に答える弥富所長
会員制度へのご入会は、賃金管理研究所のコンサルティングを受けられた企業が主な対象となりますが、責任等級制賃金・人事制度の導入をお考えの企業も、プレ会員としてご入会いただけるようになりました。
これからも会員の皆様のお役に立てますよう、研究会の充実を図ってまいります。(大槻幸雄)
