「優秀な人材をいかに確保するか」これは、すべての企業にとっての大命題です。とりわけ新卒採用を安定的に行うことが難しい環境にある中小企業では、中途採用者をいかに確保し定着させるかが社の命運を左右するといっても良いでしょう。にもかかわらず、中途採用者の賃金決定で間違った対応をされている会社が非常に多いのも、また事実なのです。
具体的には、①業界経験がないからといって、プロパー社員より大幅に低い水準で基本給を設定し、その後の見直しや習熟に応じた十分な昇給が行われていないケース、②大手企業からの転職組で、本人希望額をクリアするために、既存の成績優秀者を大きく上回る基本給を支給しているケース、の2つが代表例といえるでしょう。
こうした歪みを生むような賃金決定が罷り通ってしまう原因としては、採用スタンスがしっかり決まっておらず、応募者に求めるべき人物像が明確になっていないことが挙げられます。中途採用を行なう際は、会社が求める人物像が明確になっていなければいけません。
① 即戦力として期待できる経験者が欲しいのか(一般採用)
② 急いで人手を確保したいのか(初級業務採用)
③ マネジメント経験のある実力者を幹部候補としてスカウトしたいのか(スカウト採用)
漠然と「人が足りない!」との想いだけで採用活動に踏み出してはいけないのです。実際の業務手順に沿って、中途採用者の採用時初任給の決定手順をみていきましょう。
【まず何等級で採用するかを決める】
賃金管理研究所が推奨する責任等級制度を始め、職務等級や役割グレード制など仕事基準の処遇体系では、入社後にどのレベルの仕事を任せるかによって等級格付が決まります。まず何等級で採用するのか、すなわちどのレベルの仕事を任せるのかを決めることが、最初の手順となります。
【採用時の評価結果に従って基本給水準を仮決定する】
合理的な賃金制度が確立している会社であれば、採用評価に基づいて、簡単に基本給額を導くことができます。仮に採用評価を通じて「3等級(主任クラス)で、年齢は33歳、平均的なオールB評価相当が妥当である」と判断したのであれば、賃金表やグラフ上からその条件に見合う基本給額を読み取れば良いだけです。
【仮決定した本給号数と在籍者とのバランスを調整し、最終的な基本給額を決める】
仮決定された号数は、実際の在籍者とのバランスを確認したうえで、必要に応じて凸凹調整を行ない、バランス良い号数に修正します。本人への能力発揮期待度と本人希望額とのバランスも総合的に判断しながら、最終的な基本給額を決定します。
【各種手当を加算し、採用初任給を決定する】
基本給が決まれば、給与規程のルールに従って各種手当を加算し、月例賃金総額を確定します。
常に人材不足の状況に置かれている会社も少なくありませんが、「常に良い人材がいれば採用したい」という会社もあれば、「退職者の穴を埋めるため最小限の補充を」という会社もあり、採用戦略のスタンスも会社によって其々です。
もっとも、「将来を託せる有望な人材を確実に確保したい」と採用コストをかけたとしても、殆んど応募がないということもあり得るのが今日の状況であり、環境変化に応じて機動的に対応することも必要となりましょう。難しい雇用環境が当面は続きそうです。
所長 大槻 幸雄