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「賃金の動向とこれからの中小企業の賃金政策を考える(3)」

 2019年の最低賃金が引き上げられました。全国平均で27円引き上げられて901円となり、ついに900円台に突入しました。東京と神奈川では初めて1,000円の大台にのることにもなりました。政府は、これまでも全国平均で1,000円を目指すと宣言してきましたから、今のペースで行けば、少なくともあと4年は最低賃金が引き上げられることになりそうです。
 
 前回、労働市場の現況を概観しましたが、雇用がひっ迫する中では、採用初任給は上昇する傾向にありますし、パートやアルバイトに適用される最低賃金が3%以上も上昇するわけですから、所定労働時間に対する人件費は増加基調となります。
 
 ただし、働き方改革関連法の施行にともなって、厳格な労働時間管理を推進しなければならないこともあり、時間外勤務(=残業)自体は減少傾向にあるので、残業手当の減少が総額人件費の抑制に寄与しているという会社があることも事実です。
 
 働き方改革関連法では、長時間残業の抑制が大きなテーマですので、これまで長時間労働が常態化していた職場や事業場では、これを法の枠内に収めることに加え、有給休暇も年間5日以上を取得させるよう求められています。そのためには「いかに生産性を向上させるか」という根源的なテーマにも、併せて取り組んでいかなければなりません。
 
 働き方改革のもう一つの柱である同一労働同一賃金の問題も、要は正社員に比べて割安な非正規従業員の賃金処遇について、合理的に説明できるレベルまで是正する(引き上げる)ことに主眼が置かれていますから、多くの会社でコストアップ要因となることは火を見るより明らかです。
 
【人件費アップの要因】
 ・初任給水準の上昇
 ・最低賃金の上昇にともなう時給単価の上昇
 ・同一労働同一賃金(均等待遇、均衡待遇)による非正規社員の処遇是正
 
【人件費抑制の要因】
 ・時間外勤務の削減による残業手当額の減少
 
 賃金(=人件費)が上昇し、労働時間も削減されるなかで、従前どおりの生産性を維持しようとすれば、会社によっては、これまでの仕事のやり方(ビジネスモデル)そのものを見直す必要が出てくるかもしれません。
 
 もちろん、そう簡単にはビジネスモデルを変えられないという会社のほうが圧倒的に多いはずです。しかし、労働人口が今後10年先、20年先に向けて急速に減少していく中であっても、商品やサービスを生み出す源泉は社員であり、その定着なくして事業の発展はありません。そして労働条件の中核をなす賃金処遇を合理的に決定することなくして、社員の定着はあり得ないのです。(続)
所長 大槻 幸雄

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