評価制度の運用上の納得性を高めるために必要な5つの決めごと(基本原則)のうち、
1.評価の対象は 仕事の成績〔成果・プロセス〕に限定する
2.評価する対象社員は同じ等級の社員同士に限定して相対評価する
3.評価対象期間を過去6ヶ月間に限定する
の3つについて取り上げました。今回はその続編です。
4.評価者は 直属の上司ただ一人に限定する
評価者の仕事は、部下の仕事の成績に関して、予め定められた評価要素や着眼点に照らして、自らの責任と判断に基づいて評価点を付けることです。この作業ができるのは部下本人に直接の指示・命令を与え、その遂行課程を確認し、結果について報告を受けるべき立場にある者、すなわち直属上司ただ一人に限定されます。つまり、被評価者をいちばん近くでいつも見ている直属上司だけが、最も客観的で正しい評価を下すことができるということです。
他の課の課長や同僚なども含めて評価を行なう360度評価や多面評価は、本来、個々の社員の職務適性や基礎能力を判定する場合にのみに限定されるやり方です。仕事の成績(プロセスと成果)に関しては、被評価者に対する指示命令権限を持っている直属上司にしか、その仕事ぶりの善し悪しを判断することができないのは言うまでもありません。なお、評価者誤差を解消するためには、評価者の上長を二次評価者として評価権限を与えるのではなく、あくまでも調整者として評価システムに参加させることになります。
5.評価調整は、部下の順位と相対的な点数のバランスに限定する
評価者が持っている甘辛・集中分散といった評価誤差や評価者特有のクセは、いくら評価者訓練のような機会を設けても完全に是正できることはありません。
しかし、その評価グループ内に限って言えば、評価者が付けた点数の序列と相対的な点数間隔は、信頼性が高いものと考えられます。数値で表された点数の大きさは、部門・部署を超えてまで重要な意味を持ちえませんが、直属上司がつけた順位と相対的な点数のバランスは、調整作業終了後に評語(SABCD)決定を終えるまで、十分に尊重されなければなりません。
能力・適性に対する到達度評価を目的とする人事考課では、二次評価や三次評価によって評価の客観性を高めることとなり、上位の評価者にはより強い評価権限が与えられます。これに対し、成績評価制度では評価者(課長)の上長(部長)は調整作業に徹し、評価グループ内の順位や相対的な点数バランスを勝手に変えることはできないものとされています。このルールがあればこそ、評価の納得性を保つことができるのです。
以上の5つの限定事項を守って評価実務を進めていくことが、納得性ある評価実現に向けての近道です。直属上司が評価をつけたら、間接上司が調整者として部門間格差と評価誤差を調整し、等級ごとにまとめて順位を決めます。同じ等級内でも成績は正規分布を描きますから、これを一定の比率で区切り、人事担当責任者においてSABCDの評語案を決定することになります。(了)
所長 大槻 幸雄