03-3953-6761
 · 

「男女の賃金格差の開示義務化と女性の活躍推進の必要性」

 2022年5月20日に岸田文雄首相は、「新しい資本主義実現会議」の席上で、企業に対して男女の賃金差の公表を義務化する方針を表明しました。すでに同年1月の施政方針演説で触れられていた内容ではありますが、年内の施行を視野に入れて準備を進めるとのことで、比較的短い準備期間の中で、企業は対応を迫られることになります。
 
 対象となるのは常時雇用される従業員が301人以上の会社。もともと女性活躍推進法において、女性役員の比率や男女の平均勤続年数の差異等を公表することが定められていますが、これに賃金格差が加わることとなります。具体的にどのような要件が求められるのかは、現時点ではわかりませんが、年齢階層や職位ごとに賃金格差の公表が要請されるのではないでしょうか?
 
 こうした動きが加速する背景には、わが国の女性の賃金水準が大幅に低いことがあります。基本的には男女間の賃金格差は世界的な問題であり、男性の賃金を100としたとき女性の賃金はOECD平均で88.4だそうですが、日本はこれを10ポイント以上下回る77.5と報告されています。43か国中で、韓国、イスラエルに次いで低い水準です。
 
 なぜ日本では男女間の賃金格差が大きいのでしょう?
 
 これには様々な要因が影響していると考えられ、会社によっても状況は異なるものだと思います。指摘されているものとして、「女性の管理職等への登用が極端に少ない」「出産や育児で一時的にでも職場を離れると、復帰後の処遇が伸びにくい」「飲食サービス・宿泊業等、給与水準が低めの業種に女性が多く就労している」「女性の成長やキャリアに繋がるような仕事の割当や育成プランに乏しい」「一般に女性は平均勤続年数が短いため、賃金水準が積み上がらない」などがあり、さまざまな要因が複合的に絡み合っていることがわかります。
 
 このたびの女性の活躍推進における賃金格差の開示範囲の拡大は、法による規制強化の問題と捉えるのではなく、「上述のような様々な課題を克服し、多様な人材を活用するとともに、その育成を図ることによってわが社の成長に繋げていく」、そのための取り組みであると位置づけるべきでしょう。
 
 労働市場に目を向ければ、労働人口の減少は今後も続き、中小企業ではより人材のひっ迫感が高まるものと予想されます。新規学卒者が採用できないという会社も徐々に増えているなか、シニア社員の活用と並んで女性の活躍推進に向けて前向きに取り組むことは、多くの企業にとってより重要な人事戦略となることは間違いないでしょう。
 
 成績評価に基づいて、ポテンシャルの高い人には、性別に関係なくその能力開発に繋がるような仕事を割り当てるのは当然のことであり、企業は女性の力をもっと生かす努力をすべきだと思います。ただその一方で、部下育成の責任を負う管理職が「女性は家庭第一」「女性は責任あるポジションに就きたがらない」などという無意識の偏見を持っている場合には、まずこれを払拭することも重要です。組織改革によるガバナンス強化や「働き方」改革(長時間労働の解消、テレワークなど柔軟な働き方等)の促進も、同根の問題といって良いでしょう。
所長 大槻 幸雄

 < ブログの紹介>