先日、とある地方都市でセミナー講師を務めた時のこと。昇格昇進に関連して、「課長への昇進の内示の際に、これを辞退したいと申し出る社員が全国的に増えている」旨をお話したところ、強く頷いて聞かれているお客様が何名もいらっしゃいました。
実際、ある調査では、20代社員の3分の1は管理職になりたいと考えているものの、管理職になりたくないと考える社員も同様に3分の1に達するとのこと。どうやら、社内でのキャリアは、主任や係長止まりで構わないので、仕事を通じてある程度の専門性は身に付けたいが、部門業績や部下育成などの大きな責任を負う仕事には就きたくないという若者が増えているようです。
-
責任が急に重くなり、仕事はかなりたいへんそうだ。
-
それなのに、残業代が出なくなり、かえって手取額が低くなることもあるらしい。
-
自分の業績目標を持ちながら、部下の面倒も見なければならないなんて…。
-
これまでの自分の趣味や余暇の過ごし方ができなくなりそうだな。
そこには、毎日のように上司として対面しているリアルな課長像が、将来のなりたい自分のイメージに合致していないという現実があるのかも知れません。
会社が、管理職として1つの組織を任せたいと期待を寄せるような若手優秀社員であっても、本人の自己実現イメージが会社の職制上のポストには向けられていないのだとすれば、それは企業にとっても決して好ましい状況ではありません。
確かに、大企業から中小企業まで、かなり広範にわたって「課長職はプレイングマネージャー」だと捉えられていますし、個人の業績責任(自分の目標数値)に加えて目標・行動計画の策定や部下育成をも担う課長職は、係長に比べてひときわ大きな責任と裁量、そして業務量を有しているのは明らかです。しかし、管理職の責任範囲が広がりすぎて、過大な業務量となっているにもかかわらず、バランスのとれた賃金処遇がなされていないとすれば、社員から敬遠されるのも当然のことといえるでしょう。
管理職としての責任の中核を占めるのが、「組織マネジメント」です。これには業績責任に関するものだけでなく、職場における適正な就業管理もこれに含まれます。ここでいう就業管理とは、時間外労働や休日労働に代表される労働時間管理の問題だけではなく、パワハラやセクハラの防止、申請された休暇(有給、育児・介護休暇など)に対する適切な対応など、社員の日常に密接に関連し、やる気の向上にも直結する需要なテーマを広くカバーするものです。
個々の社員が主体的に業務に取り組むようになれば、職場の生産性は大幅に向上するといわれますが、その中核に位置するのがまさに課長職なのです。その背中は、若手社員から目標とされるように常に前を向いていて、かつ輝いていて欲しいもの。「上司であり大先輩である○○課長のようになりたい」と若手社員に思わせ、なりたい自分の姿、すなわち自身のキャリア目標とその背中を重ね合わせることができるようになれば、課長職を目指したい若手社員はもっと増えることでしょう。
現在の課長職を、若手社員の誰もが目標とし憧れる、そんな花形のポストへと是非育てていってほしいと思います。
所長 大槻 幸雄