住宅手当は、生活関連手当の中でも比較的採用している企業が多い手当です。厚生労働省「就労条件総合調査(令和2年)」によると、住宅手当を採用する企業の割合は家族手当の68.6%に次ぐ47.2%と、半数近くを占めています。
ただ、住宅に対する価値観は人それぞれであり、「賃貸か、持ち家か」や「職場の近くに住むか、離れて暮らすか」など、基本的には本人の意思・希望で一定程度まで選択可能なものです。そのため、住宅手当を設定する際に公平を期したつもりでも、どこかで不平不満が生じやすい性質を持っています。その意味では過度に深入りし過ぎない方がよい手当と言えますが、採用戦略上は非常に有効な手当ですので、適切な活用法を探っていきたいと思います。
企業が住宅手当を支給する目的として、主に次の3つが挙げられます。
(1)社宅や寮に住む社員とその他の社員とのバランスを調整するため
(2)転居を伴う転勤となる社員の家賃負担を軽減するため
(3)優秀な人材を採用しやすくするため
住宅手当は、支給目的や対象者、要件も各社各様で運用されています。今現在、住宅手当を支給していない会社が支給を検討した場合、社宅や転居を伴う転勤自体がない会社であれば、「住宅手当の新設は不要だ」とただちに考えてしまうかもしれません。しかし、人材獲得競争がこれからさらに激化すると見込まれる中、優秀な人材の獲得はすべての企業に共通する至上命題です。だとすれば、採用戦略の見地に立ち、あらゆる企業で住宅手当を俎上に載せるべきだと考えます。
中小企業、とりわけ地方で事業を営む企業では、地元だけで採用予定人数を充足させることが困難であり、業種によってはそもそも応募者の母集団形成もままならない…、という深刻な現状があります。そんな企業にとって、今や住宅手当は広範囲から応募を集める上で欠かせない手当になりつつあります。住宅手当の存在は、遠方にいる潜在的な候補者が抱く心理的、金銭的な応募に対するハードルを下げ、応募を前向きに検討させるきっかけになるからです。
また、住宅手当の設定は、大企業と比べて給与水準で不利となりやすい中小企業でも既存社員とのバランスを崩すことなく採用条件を引き上げることができるため、賃金体系維持の観点からも望ましい対応策です。ただし、支給年数(年齢)に上限を設け、給与の絶対額が少ない時期に限定した支給とするなど、いつまでも優遇措置が続くことのないよう制限すべきです。
金額水準はどのくらいにすべきか、支給対象者はどのあたりまでカバーすべきかなど、手当の詳細は自社の給与水準を睨みながら決定することになります。やみくもに高額な手当を支給すると源泉税や社会保険料の負担も増えますので注意が必要です。手当支給に比べると管理は少し煩雑になりますが、会社名義で賃貸住宅を契約し、社員から使用料を徴収する「借り上げ社宅」として運用するのも良いでしょう。この場合も使用年数(年齢)に上限を設け、必要以上に優遇し続けることのないようにします。
これからの企業は、住宅手当を福利厚生・生活費補てんの側面だけでなく、募集から採用、定着に至るまでの「社員の長期的就労への動機付け」というより高い視点から捉えた上で、積極的に導入・運用していくことが求められているのです。
チーフコンサルタント 髙橋 智之