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「管理職手当の意義を考える」

 責任等級制賃金制度では、労働基準法で定める監督もしくは管理の地位にある者(以下、「管理監督者」)に対し、その職責の重さにふさわしい金額で管理職手当を支給します。その一方で、管理監督者以外の役職者に対しては役付手当を支給しません。
 なぜそうするのかというと、管理監督者ではない主任や係長等の役職者に役付手当を支給した場合、この手当も割増賃金単価の算定基礎に含めなければならず、時間外勤務手当にもはね返ります。その結果、管理職と一般社員(非管理職)の間の賃金差が小さくなり、管理職の処遇を相対的に引き下げてしまうことになるからです。
 責任等級制度においては、「所定内労働に対する責任の重さや仕事の難易度は、基本給が受け止める」と考えます。ただ、実際には管理監督者以外の社員には時間外勤務手当が支給されることから、部下と賃金の逆転現象が起きないよう管理職手当でカバーする必要が生じます。日々の現場では管理職が部下に仕事を割り当てて指示・命令を行い、その仕事ぶりを確認し報告を受ける立場にあることから、管理職は残業も含めた部下の実労働時間以上に拘束されるのが普通です。そのため、冒頭で取り上げた管理職手当の「その職責の重さにふさわしい金額」も、一般社員の平均的な時間外勤務の実態を考慮して手当額を設定する必要があるのです。
 十分な手当額を設定していなかったために、「課長になると今よりも給料の手取りが減るので昇格したくない」と管理職への登用を断られてしまった、という話もよく耳にします。優秀な人材が難易度の高い仕事に臆することなくチャレンジできるよう、手当額は合理的な水準に設定しなければなりません。
 ところで、このように時間外勤務との関係から管理職手当を説明すると、「給与規程を次のように変更した方がよいか?」と質問を受けることがあります。
 ・管理職手当は、部長、課長等の管理監督の地位にある従業員、またはこれに準ずる業務に従事する者の○○時間分に相当する時間外勤務手当とし、実際の時間外勤務時間が超過した場合は、超過分の時間外勤務手当を追加で支給する。
 「労基署から管理職の管理監督者性を否定された場合に備えたい」という考えがあってのこととは思いますが、この内容では、会社が「うちの管理職は管理監督者ではない」とはっきり認めたことになりますので、適切ではありません。あくまでも非管理職との賃金バランスを取るために時間外勤務の実態を考慮するのであって、決して固定残業手当として扱う訳ではないのです。
 管理監督者として、管理職には自分が任された組織において、経営者と同じ目線からマネジメントすることが求められます。会社が支給する管理職手当は、支給対象から外れた残業代を補てんするためだけに支給しているのではありません。「管理職手当がなぜ、自分に支給されているのか…。」今一度、管理職に自問させ、経営者意識をもって行動するよう促していただきたいと思います。
チーフコンサルタント 高橋 智之

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