家族手当(扶養手当)は、福利厚生的な手当として日本企業に広く浸透しています。人事院「令和4年職種別民間給与実態調査」によると、家族手当の制度がある会社は75.3%と、実に4社に3社の割合に上ります。ちなみに、全国の平均支給額は配偶者13,499円、子1人目6,711円、子2人目6,273円となっています(同調査より)。
会社が家族手当を支給する大きな目的は、「長期雇用に伴う社員の生計費負担の緩和」です。長く勤めていると独身だった社員も結婚し、家族も増えることでしょう。すると、食費や光熱費といった毎月の生計費は、独身時代よりも当然かかるようになります。このような生活環境の変化で生じる社員の負担を和らげようと、家族手当を支給することで「この会社で長く勤めて頑張ろう」という社員のやる気の維持・向上に繋がっていくのです。
このように、家族手当を活用する本質的なメリットは「会社と社員の間で『絆』や『リレーションシップ(関係性)』を深められること」にあります。そして中小企業が、社員の名前と顔の一致する規模であることを考えると、家族手当は中小企業が積極的に活用すべき手当であるとお分かりいただけるでしょう。
次に、実務面における具体的なメリットを挙げてみます。
1.採用において福利厚生面でアピールでき、採用競争を有利に進められる
募集要項に家族手当があることで、応募動機に繋がる可能性が広がります。
2.生計費の負担が大きい社員とその期間を限定して給与を引き上げられる
「子の支給対象年齢は満18歳まで」等、支給対象家族と支給額を設定することで、生計費の負担が大きい社員に対し、負担が大きい期間に限定して給与を引き上げることができます。仮に家族手当を使わなければ、基本給だけで全社員の生計費を賄えるよう、基本給の水準を引き上げなければならなくなるため、総額人件費はより多く必要となります。
3.割増賃金の算定基礎から除外できる
扶養人数等の要件に応じて支給する家族手当は、割増賃金単価を算出する際、算定基礎から除外することができます。したがって、時間外・休日勤務手当に跳ね返る心配はありません。
ここまで家族手当の良い面を挙げてきましたが、ここ数年は同一労働同一賃金への対応から見直しを検討する企業が増えていることも事実です。たしかに、そのような考え方も理解できます。しかし、手当を見直す前に、特に中小企業には家族手当がもつプラス効果を再認識していただきたいのです。
今年の賃金改定では、物価高への対応からベアを前向きに検討する会社も増えています。ここで、家族手当の増額改定も実施できれば、すでに家族を養っている社員はもとより、これから家族を持ちたいと考えている社員にも安心感を与え、物価高に対してもより効果的な賃上げとなります。
また、人手不足が深刻であれば、あらゆる雇用形態の社員の長期定着が欠かせないため、非正規社員への家族手当支給も有効となるでしょう。家族手当の戦略的な活用をご検討ください。
チーフコンサルタント 髙橋 智之