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「中小企業とベアを含めたこれからの賃金戦略」

 今春の労使交渉をめぐって、連合は11月初旬の段階で、早々に定昇分2%に賃上げ分3%程度を上乗せした5%程度の賃上げを統一要求とすることを掲げました。これまでにない水準の統一要求ではあるのですが、経団連側も物価上昇を受け、「企業の社会的な責務として賃金引き上げのモメンタム(勢い)の維持・強化に向けた積極的な対応を」と加盟企業に呼び掛けるなど、これまで前向きな姿勢を示しています。
 実質賃金の低下が指摘されていますが、年初に発表された11月の実質賃金は3.8%減と、2014年5月以来のマイナスを記録しました。名目賃金は0.5%増となったものの、消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)が4.5%上昇したことを受けての大幅な下落です。
 政府からの「物価上昇を上回る賃上げ要請」を受けるかのように、大手企業の一部からは大幅な「賃上げ宣言」が出されています。日本生命・オリエンタルランドが7%、サントリーが6%、ユニクロでは新任店長では賃金が4割上がるケースもあるとの報道もありました。
 エコノミストの予測(平均)では、今春の主要企業の賃上げ率は2.85%と予測されていますが、日銀短観に示されている企業の景況感や、国際経済の減速と先々の下振れ懸念もあり、5%の賃上げを行なえる企業はごく一部の大企業に限られることになるでしょう。
 このように大手企業、主要企業の賃上げ動向についての報道が先行するなかで、中小企業について城南信用金庫が行ったアンケート調査によると、賃上げしないと回答した企業が72.8%に上ったとのこと。原材料の高騰を受け、コストの価格転嫁ができていないという会社が多く、実際に賃上げをすると回答した26.8%の企業の6割が、賃上げ率2%台までのようです。
 このような報道を目の当たりにするにつけ気がかりなのは、今後も中小企業と大手企業の賃金格差が今後も急速に開いていくであろうということ。労働人口が減少し人材確保が難しくなる時代に、賃金格差がこれ以上広がれば、中小企業の人材確保はさらに難しくなるのは必至です。
 経団連の春季労使交渉の妥結結果で比較すると、大手企業の賃金ベースは330,000円前後、中小企業の賃金ベースは260,000円前後です。(なお、連合300人未満企業の賃金ベースは247,000円、厚労省主要企業は314,000円ほどです。)
 いま、平均賃金(厳密には組合員レベル=非管理監督者の平均)が250,000円の会社があり、これを主要企業並みに314,000円まで引き上げたいと考えたとしましょう。これを実現するには、毎年3%のベースアップを7年にわたって継続して実施しなければ、314,000円には到達しません。(ちなみに、毎年1%のベアだと23年もかかります。)なお、この3%はあくまでもベア分であって、定期昇給分(=賃金カーブ維持分)は別に行わなければなりません。
 このことが示しているのは、「賃上げ率は、中小企業だから低くてもしょうがない」という理屈は通らないということ。賃金ベースの高い大手企業の賃上げ率がいつも高く、賃金ベースの低い中小企業の賃上げ率がいつも低いということは、その間に賃金格差がどんどん広がっているということです。
 中小企業といえども、賃上げ率は大企業並み以上を目指していただきたいと思うのです。賃金ベースが低い以上、大企業と同じ賃上げ率であっても少しずつ水準格差は開きます。そして水準是正を短期間で行なうのは非常に難しいことでもあります。
 そう考えると、1年、1年の賃上げ(昇給+ベア)を疎かにしてはいけないことが良くお分かりいただけるのではないでしょうか。2023年の給与改定は、物価上昇と人材確保を念頭に、また必要であれば中期的な視点に立って(5年後、10年後を見据えて)臨んでいただくのも良いと思います。
所長 大槻 幸雄

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