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「ベアは等級や年齢等で適用条件を変えてはいけません」

 今年の賃金改定が例年と大きく異なるのは、物価高です。2022年の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は前年比2.3%増でした。通年で2%を超えたのは、消費税率の引上げがあった2014年(2.6%)を除くと1992年(2.2%)以来、実に30年ぶりのことです。そのため、当社に寄せられるご相談も「物価高への対応も含め、今年はどのようにベアを行うべきか」というものが多く、ベアを前向きに検討している会社も例年以上であると感じます。
 社員の年齢や役職に関係なく、皆が物価高の影響を受け、生活費の負担が増えていると考えれば、全員一律の金額で引上げる「定額ベア」で対応するのが合理的でしょう。仮に2千円の定額ベアを行った場合、所定内賃金20万円の社員であれば1%の引上げに相当し、同40万円の社員は0.5%の引上げに留まることから、所定内賃金の少ない社員や相対的に賃金が少ない若手社員ほど手厚い賃上げとなります。
 ただ、今年は次のような内容のご相談を、複数の会社から受けました。
 「もしも定額で5千円引上げた場合、中堅以上の社員も5千円上がることに少し抵抗感がある…。採用初任給相場への対応もあわせて考えると、中堅以上向けの原資をできるだけ若手層へ振り向けたい。例えば、定額ベアの額を1・2等級8千円、3・4等級4千円、5・6等級1千円というように、等級別に設定したら何か問題があるだろうか?」
 では、上記のように定額ベアを設定すると何が起きるのか、具体例で確認してみましょう。
 ・2等級21号に甲と乙の2名の社員がおり、甲はA=5号昇給、乙はB=4号昇給し、
  それぞれ2等級26号、2等級25号になった。
 ・甲は昇給直後に3等級1号へ昇格した。
 (新年度) ※本給は、2023年度大都市中位水準モデルの金額
 甲:3等級1号  本給241,100円 加給4,000円 基本給245,100円
 乙:2等級25号 本給239,480円 加給8,000円 基本給247,480円
 
 甲は乙よりも良い昇給評語を取ったにもかかわらず、昇格したことで乙よりも低い基本給となってしまいました。このように加給を等級別等で条件を変えて適用させてしまうと、不合理な結果を招く恐れがあります。なお、今回のケースであれば、定額加給での大幅アップと定率加給のダウンを組み合わせることで、中堅社員の純増を抑えつつ、若手層への配分を厚くすることが可能です。
 このご相談はさらに、「昇格前の基本給の金額を下回らない号数へと昇格させれば良いのではないか」と続きます。しかし、そうすると昇格に伴い加給が目減りする分だけ本給を高くする(=号数を上げる)ことになるため、他の社員とのバランスが崩れ、本給額を退職金の算定基礎としている場合には退職金にまで影響が及ぶことになります。
 ベースアップとは、文字通り賃金表の水準(ベース)を引き上げることであり、一律の条件を全社員、全等級・号数に適用させることが大原則です。一度でも場当たり的なベア(加給)運用を行ってしまうと、元へ戻すにも大掛かりな手術が必要となりかねません。
 基本給は、賃金体系の根幹です。恣意的な運用で賃金人事制度が根元から倒れてしまうことのないよう、確実に運用し、丈夫に育てなければならないのです。
チーフコンサルタント 髙橋 智之

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