最近、お客様からのご相談案件の中に、「社員からの異動したくないという意向が年毎に顕著になってきている」「首都圏の営業所に配転した営業社員が向こうで家を建て、本社に帰って来たくないといっている」など、転居を伴う異動(以下、転勤)に関する悩みが増えています。
地方に本社があり、首都圏、近畿圏等に営業所がある会社の場合、こうした大都市圏の給与水準は必然的に高い水準であることから、当該地域への転勤者には地域手当(都市手当)を付けたり、住宅手当を厚くしたりして、本人に経済的な負担がかからないように配慮します。また、転勤のある総合職や営業職には、転勤することのない地域限定社員よりも高めの基本給テーブルを用意して、異動へのインセンティブとすることもあります。ただ、このような賃金施策上の手当を支給していても、転勤を拒む声が上がってくるのが昨今の実情です。
では、転勤や転居を伴う異動を嫌がる社員に対しては、どう対処したらよいでしょう。
まず、異動の目的や意義や必要性をしっかり伝えることが大切です。社員に異動を行なう理由や背景、個々の社員に期待することを明確に伝え、異動への理解や納得を得られるようにします。このとき、異動によって社員が得られる職務経験やキャリアアップへの可能性なども具体的に伝えることで、異動へのモチベーションは高まることが期待されます。
次に、転勤先の職場環境や生活面で不安のないよう会社がサポートすることを伝え、十分な準備を整えます。社員が不安に感じることとして、仕事面では新しい職場での業務内容や対人関係、生活面では住居や通勤、家族の生活などが挙げられます。転勤する社員に余計なストレスをかけないよう、会社としての支援体制を整えることは重要なことです。経済的な負担をかけないのは勿論ですが、家族帯同の場合は学校や医療機関などの情報提供、引越しや転校手続きに対する支援なども本人負担の軽減につながります。不安を取り除くという点では、職場環境に関することが最も重要です。業務内容や職場の雰囲気に関しては、異動後のOJT(実務指導)や教育・研修制度を通じてのフォローアップ、異動先の上司や同僚とのコミュニケーション機会を設けること等も有効です。
さらに、異動後の評価や報酬の考え方について正しく伝えることも重要なポイントです。社員が異動後に不満に感じることの1つに、評価基準の変更、賃金処遇の減少などがあります。異動前と異動後で評価基準や手当支給額などの報酬内容が変わる場合は、社員が納得できるように事前にしっかり説明しなければなりません。特に転勤者の評価については、新しい職務を覚えなければならないことや業務目標がリセットされることを不利に感じたり、評価者である上司との関係構築に不安を感じたりすることもあるでしょう。かつて「配転後は、仕事を覚えるのが仕事だから最初は評語B以下とする」と決めている会社がありましたが、これでは優秀者をキャリア開発の目的で異動させることは出来ません。転勤・配転後の評価面における配慮や調整も、時に必要となります。
以上のように、転勤や転居を伴う異動を嫌がる社員に対しては、処遇面でのインセンティブだけでなく、十分なコミュニケーションやサポート体制への配慮も重要な要素なのです。
所長 大槻 幸雄