2024春季労使交渉がスタートし、毎日のように賃上げを巡るニュースが取り上げられています。
連合は12月初旬に次の春季労使交渉で「5%以上」の賃上げを目指すと発表しましたが、主要な産業別労働組合などからはすでにそれを上回る要求が出ています。この背景には、組合員の処遇向上という直接的な目的だけでなく、人手不足の解消と優秀な人材の確保・定着という、経営側とも共通する課題があります。
政府、労働者、経営者の協議の場でも、中小企業の賃上げを視野に入れ、中小企業の価格転嫁を促進するための「大企業と中小企業の取引の適正化」がテーマに上がっており、賃上げを取り巻く議論は広がりを見せています。
人材獲得競争の激化や基本賃金の上昇を背景に、中小企業も賃金水準の引き上げに取り組むだけでなく、多様な人事戦略を活用して人材の確保、育成、定着を急ぐ必要があります。待ったなしの状況です。
人事制度改革は、大企業だけでなく、中小企業にとっても先延ばしにできない重要な課題となっています。給料が世間並み以下では、社員が定着せず、優秀な人材が退職してしまいます。したがって、一定の給与水準以上は必要です。
しかし、社員の獲得と定着を図るためには、それ以外の課題にもしっかり目を向ける必要があります。社員のモチベーションを阻害する最も深刻な要因は、将来(処遇、キャリア、自己成長、福利厚生など)に対する不安です。人事制度を「仕組化」「可視化」し、それを社員に示すことで、定着と育成につなげることがこれまで以上に大切なのです。
会社として対応しなければならない人事制度上の課題・テーマは多岐にわたります。労働時間管理、シニア社員の活用、女性の活躍推進、キャリアパス整備、研修機会の確保、社員の多様化への対応、健康経営、採用活動などです。しかし、その基盤となる基本システムは「等級制度」「賃金制度」「評価制度」の3つに集約できます。
賃金管理研究所の会員企業を始め、責任等級制賃金制度を正しく導入している企業では、すでにこの等級制度、賃金制度、評価制度は確立されています。しかし、昇格要件が甘く、昇格・昇進者が自動的に決まる年功昇になっていた場合、人事制度の様々なところで公平感が損なわれている可能性があります。
「責任等級制度」は、役割と責任のレベルの違いにより等級を大括りに区分し、等級ごとに適切な賃金範囲を設定します。これにより、同一等級・同一職位でも成績や貢献度の違いを反映しやすいという特長があります。
「長期的な安定雇用を就労管理の基本とし、人員配置を柔軟に行いながら人材の活用・育成を図る」、そんな中小企業の組織管理と相性の良い責任等級制賃金制度ですが、昇格基準が甘いと、不公平感が増大し、総額人件費が肥大する可能性があります。限られた総額人件費の中で社員のモチベーションを高めるためにも、その効果的な配分が強く求められています。今年度の賃上げ決定に合わせて、昇格・昇進の運用を全面的に見直すことも考えてみてください。
所長 大槻 幸雄