コロナ禍を経て、経済が正常化に向かうなか、出張の機会も増えてきたという会社は多いでしょう。私も出張で飛行機や新幹線などに乗る機会が増えましたが、スーツ姿の出張と思しき方が明らかに増えたと感じます。また、出張客だけでなくインバウンドの旅行客も急増し、いわゆる観光地ではないような地方の街中でも外国人観光客を見かけるようになりました。
このような需要の増大に加え、昨今の物価高の影響もあり、宿泊料の相場は上昇しています。東京商工リサーチ「上場ビジネス・シティホテル客室単価・稼働率調査(2023年)」によると、コロナ禍前(2019年4~6月)と比較可能なビジネスホテル8ブランドにおける2023年(同期)までの客室単価の推移は、2019年の平均9,759円が2021年に同5,960円まで落ち込んだものの、2023年には同11,087円と、コロナ禍前の金額を超えました。
たしかに、以前であれば三大都市圏のビジネスホテルでも1泊1万円以下で泊まれるところはたくさんありましたが、最近はなかなか見つけることができません。数か月前から決まっていた出張であれば早期割引などで手頃な値段の宿を押さえることもできますが、急に出張が決まった場合などは空いている宿を探すだけでも一苦労…という状況です。
このような背景もあって、出張旅費規程の宿泊料についてご相談を受けることが増えました。皆さんにご事情を伺うと、規程を設けて以来、何年もの間、内容は変わっていない、とのこと。
ところで、出張に伴う宿泊料の世間水準はいくらぐらいなのでしょうか。労務行政研究所「出張旅費の最新実態(2023年)」によると、出張の距離や地域による金額差がない場合の宿泊料の平均は、部長クラスが10,195円、一般社員が9,198円でした。
前述の東京商工リサーチの結果は上場しているビジネスホテルの客室平均単価であり、やや高めの金額となっているかもしれませんが、支給される宿泊料では足りない、という事態が比較的多くの会社で起きている可能性があります。これでは、業務命令で出張したにもかかわらず社員個人に負担が生じるため、出張を敬遠されてしまう恐れがあります。
原則的には、宿泊料は全額実費精算が望ましいですが、とはいえ過度な金額を支給してしまうのは好ましくありません。そこで、規程上は目安となる宿泊料の上限額を設定して節度ある出張を計画させつつ、やむを得ず上限額を超過する場合には、事前に上司の了承を得たうえで全額実費精算とするのが良いでしょう。
この上限額が、最近の実態とあまりにかけ離れた低い金額になっていないかどうか、出張旅費規程をしばらく見直していないという会社は、この機会に確認していただきたいと思います。
チーフコンサルタント 髙橋 智之