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「令和7年4月の高年齢雇用継続給付の見直しに備えを」

 60歳以降の雇用において、近年は定年延長を選択する企業も増えましたが、継続雇用制度(定年再雇用)を採用している企業が依然として最も多く、全体の約7割を占めています。そして、継続雇用制度の運用にあたっては、「高年齢雇用継続給付」を活用している企業も多いことでしょう。
 現在の高年齢雇用継続給付は、雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の従業員であって、60歳以後の各月に支払われる賃金が原則として60歳時点の賃金額の75%未満となった状態で雇用を継続する高年齢者に対し、65歳に達するまでの期間について、60歳以後の各月の賃金の15%を支給するものです。
 給付についてもう少し詳しくお話しすると、60歳以後の各月の賃金が60歳時点の賃金の61%以下になった場合は各月の賃金の15%相当額となり、61%超75%未満の場合はその低下率に応じて15%相当額未満の給付となります。
 例えば、60歳時点の賃金が月額30万円だった場合、60歳以後の各月の賃金が18万円に低下したときは60%の低下率ですので、1ヶ月あたり18万円×15%=27,000円が支給される計算です。
 ところで、この高年齢雇用継続給付の給付率が改正され、来年(令和7年)4月1日から新たに60歳となる従業員への給付率が10%に縮小されます。前述の例で給付額を計算すると、18万円×10%=18,000円に減額されることになります。給付率見直しの背景には、令和7年4月1日から男性の年金支給開始年齢が65歳となることや、改正高年齢者雇用安定法で継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることができる経過措置が令和7年3月末日で終了となり、同年4月1日以降は希望者全員が継続雇用の対象となるなど、65歳までの雇用環境の整備が進んだことにあります。
 給付率の改正に伴って、来年度以降、定年再雇用者の処遇を引き上げるべきかどうかについて、直近で複数の企業からご相談を受けました。特に、昨年、今年と正社員に大幅な賃上げ(ベア)を実施したことを受け、定年再雇用者に対しても物価高騰による実質賃金のマイナスを補てんする観点からベアを行った企業も少なくないこともあり、「ベアで給与水準を引上げ済みなのだから、給付率が下がることまで補てんしなくても良いのではないか」というご意見もありました。しかし、理由が異なるのですからベアの有無にかかわらず企業は賃金引上げで対応すべきと考えます。
 実は、高年齢雇用継続給付の見直しは来年4月の給付率減少に留まらず、将来的には廃止が予定されています。廃止となれば、定年再雇用者の生活の安定に対して、企業は給与面から100%保障できる体制を構築しなければならなくなります。来年4月以降の状況も視野に入れながら、定年再雇用者の処遇見直しについて検討を始めていただきたいと思います。
チーフコンサルタント 髙橋 智之

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