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「本格的な変化の時代に備えた基礎固めを(4)~総額人件費管理と定期昇給の基本的な捉え方~」

 前回は、責任等級制賃金制度の基盤をなす本給月額表の概要をご紹介しました。等差号俸制の賃金表は、正しい昇給ルールがあって初めて社員のやる気を引き出す賃金制度として機能します。
 定期昇給の最も重要な点は、実力昇給であることです。定期昇給は、これからの1年間に発揮される能力への期待度に応じて5段階の昇給評語を決定し、昇給額に反映させます。これにより競争意識を醸成し、切磋琢磨する気風を根付かせます。
 定期昇給は、昇給ルールが正しく設定され安定的な昇給運用が継続されてこそ、定年までの長期雇用となる正社員のインセンティブとしての効果が期待できるようになることを忘れてはなりません。
 基本となる昇給評語と昇給号数の関係は以下のとおりです。
昇給評語  昇給号数
 S     6号
 A     5号
 B     4号
 C     3号
 D     2号
 年齢給や勤続給が基本給に組み入れられている会社では、年功要素のみで昇給していることとなり組織の活力を引き出せません。
 正しい昇給ルールに基づいて定期昇給を継続すれば、最優秀の評価を受けるオールSモデル社員には対外的にも見栄えのする高給を支給し、反対にオールDモデル社員にも生活最低保障の要素を織り込みながら、仕事に励みを与える最低限の昇給をすることができるのです。(生活最低保障に相当する部分は、等級別の年齢区分にもとづいて段階的な昇給抑制を実施することにより、仕事と賃金のミスマッチが生じないよう調整します。この仕組みが調整年齢制度です。)
 経営者が心配する総額人件費の上昇要因としては、最低賃金引き上げ、採用初任給の上昇、ベースアップ、非正規社員の待遇改善などがあります。定期昇給自体は主な要因ではなく、従業員規模が変わらなければ、定期昇給や新たな採用者による人件費増加分と、退職による人件費減少分は、中長期的にはバランスします。
 ただし、今春のように最低賃金や採用初任給の高騰、物価上昇に対処するために多くの企業が実施した大幅なベースアップは、確実に総額人件費を押し上げています。中高年社員が少なく平均年齢が低い若い企業や、定着率の高い成長企業の場合、総額人件費の増額幅はより大きくなります。
 総額人件費が増加しても、生産性の向上が維持されていれば問題ありません。生産年齢人口の減少は今後も続くため、少ない人員で従来以上の利益をあげるためには、生産性向上が常に意識されるべきです。生産性向上という事業戦略の中核をなす課題と人事戦略はまさに表裏一体です。
 ところで、昇給による賃金上昇を抑えようと等級別の賃金レンジを狭く設定していると、比較的若い年齢層で昇給がストップし、仕事に対するモチベーションの低下につながります。
 人事労務の担当者は、人件費コントロールばかりを意識するのでなく、人材確保と長期インセンティブの視点も忘れないようにしてください。
所長 大槻 幸雄

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