このようなタイトルを掲げると、「いや、人事評価は絶対評価であるべきだ」「人事考課は絶対評価しかありえないのでは」と反論される方がいるかもしれません。ただ、かくいう私自身も人事考課によってその人の能力や適性を測定しようとするなら、評価手法としては絶対評価だと考えています。あらかじめ客観的に定められた(という前提での)基準に対する到達度評価となりますので、絶対評価しかないと言ってもよいでしょう。
ただし、人事考課とは、その人材の保有する職務遂行能力や適性を基準に沿って測定することをいうのであり、評価対象期間中に発揮された仕事力、すなわち仕事の成績を評価対象とする場合とは全く異なるということを忘れてはなりません。本稿のタイトルはあくまでも「仕事の成績を評価する方法」なのです。
個々の会社の商品やサービスがお客様から見て相対優位にあるからこそ、お客様が選ばれて購入され、会社の売上として計上されます。出荷前の性能検査は、当然のことながら絶対評価でなければなりませんが、商品力の優劣は相対評価できまるのです。
人事評価にも同様のことがあてはまります。評価する対象が評価期間中の仕事の成績ならば、相対優位の仕事を行った人材を適正に評価することこそが重要です。このとき、仕事力の善し悪しを問うのに必要なだけの着眼点を用意し、その着眼点ごとに相対比較を行って点数化することで、客観的な評価を実現することができるのです。
公平な評価のためには、同じ責任レベルの職務を担当する従業員同士で比較します。相対評価では同じ基準(着眼点)で評価されるため、評価の一貫性が保たれると言えましょう。
相対評価には従業員間の健全な競争を促すという面もあります。自分の働きぶりが等級格付上で同格の社員と比較されることで、本人にはより高い成果を目指そうとする動機付けとなります。良い意味での競争原理が働き、切磋琢磨する気風が組織に根付けば、社員の成長にも好影響を与えます。自分のスキルや知識の不足が明らかになり、自己改善のための具体的な目標設定へとつながるのです。
社員を一人ひとり評価する絶対評価では、評価者の主観が影響して対比誤差、論理誤謬、ハロー効果などの偏りが出やすくなりますが、客観的な評価基準である着眼点ごとに相対評価を行えば、評価に対する不信感を持たれる心配はありません。
相対評価であれば、賞与などの報酬決定においても納得感を得ることができます。貢献度の高い従業員を適切に評価してメリハリある賞与を実現できれば、従業員のモチベーションは高まり、組織全体のパフォーマンス向上にも寄与します。さらに、評価要素や着眼点の中に組織との関係性を問う設問を入れておけば、チーム内の協力関係を強化する効果も期待できます。
このように、相対評価には、公平性の確保、競争意識の向上、成長の機会提供、適正な報酬配分、チームワークの強化といった多くの効能があります。こうしたメリットを正しく理解したうえで、評価制度の正しい運用を目指してください。
所長 大槻 幸雄