最近、65歳定年延長を検討したいというご相談が増えてきました。65歳定年延長を行う意義や、実際に延長する際、どのような点に留意する必要があるか、確認していきましょう。
1.定年延長を行う意義
継続雇用(嘱託再雇用)と比べ、社員のモチベーション維持を期待できる点が最も大きな意義でしょう。定年を迎えると、人間誰しも「自分の会社員人生も一区切りついた」と感じるものです。退職金を受け取って、処遇も一定程度見直し(減額)をされれば、「その金額に見合った仕事をすれば良いや…」と考えてしまうのも無理はありません。たしかに、以前に比べると継続雇用後も処遇を大きく引き下げない会社も増えてはいますが、それでも「正社員としては退職したのだから…」という思いは社員の頭をよぎるようです。
2.定年延長の進め方
(1)定年年齢の引き上げ方
移行時期を定め、65歳まで一気に引き上げるケースが多いです。2年に1歳ずつ等の段階的な引き上げや選択定年制の導入などもよいのですが、移行完了までの間の退職者管理や手続きが煩雑となりやすく、これらの業務に多くの人手をかけられない中小企業にとっては負担が大きいものです。
また、定年年齢を一気に引き上げることで、社員に対するメッセージ性がより強くなることを期待する経営者もいらっしゃいます。
(2)賃金処遇の決め方
正社員として65歳まで雇用するということは、継続雇用の場合に比べ、60歳以降の仕事ぶりに期待しているということに他なりません。したがって、定年延長後も60歳以前の昇給ルールを継続して適用されることが、社員にとっては最も納得性の高い方法です。とは言え、若年層のような能力の伸びはそうそう期待できませんので、60歳時点の基本給で据え置き(昇給対象外)とするのが妥当でしょう。
一方、賞与については60歳以下の社員と同じルールに則り、評価結果に応じた支給とすることで、適度な競争意識を持たせ、モチベーションの維持向上を図ると良いでしょう。
(3)組織の活性化
実力ある高年齢社員には、60歳以降も管理職を引き続き任せるケースも出てくることになります。一方で中堅、若年層社員は「あの人がいる限り、自分は管理職になれない」と不満を抱きかねません。会社の人員構成にもよりますが、組織の新陳代謝を図るため、役職定年制の導入も検討が必要です。
(4)退職金の取扱い
「60歳時点で支給額を固定し、65歳定年時に支給する」という方法が会社にとって負担が少なく、すでに退職金を受け取っている人たちとの公平性も保てることから、比較的多くの会社で選択している方法だと思います。
なお、住宅ローンの返済等で退職金を当てにしている社員もいるため、特にもうすぐ60歳を迎える社員に対しては、定年延長をアナウンスする前にあらかじめ状況を確認しておく必要があります。
65歳定年延長にあたっては、人件費増加に不安を感じる経営者も少なくありません。しかし、人手不足への対応が喫緊の課題であることから、65歳定年は大企業よりも中小企業の方が先行しているのも事実です。採用難が今後も続く以上、ベテラン社員には引き続き会社の業績向上に貢献してもらわなければ、事業の存続さえ危ぶまれます。
そのような事態に陥らないためには、会社は働く喜びと生活への安心感を社員に与えながら、その処遇に見合った成果が上がるよう社員を適切に評価し、生産性を向上させるための教育や投資を惜しまないことが重要です。
チーフコンサルタント 髙橋 智之