厚生労働省や連合、経団連などの団体や民間調査機関等の統計データや調査資料を参考にして、自社の人事制度の運用状況を確認している会社は多いと思います。人事労務に限らず、経営分析や財務分析に統計データを活用する際、数字のマジックやワナにはまることがあります。今回はデータ分析の注意点を取り上げます。
平均値
「平均」と聞くと標準と思いがちですが、例えばテストの平均点が50点でも、次のどれもが平均50点です。
1.45点、50点、50点、55点
2.20点、30点、50点、100点
3.0点、60点、70点、70点
最後の3のような状況でも、50点は普通でしょうか?
賃金人事関係や労務管理の分野では、厚生労働省や東京都の広範な調査資料を除き、十分な調査数がそろわないことが多いです。民間のアンケートでも回収率が低く、サンプル数が少ないとバラつきが大きくなります。そしてバラツキの大きさは、平均値への誤解を生みだしやすくします。
また、平均値は、必ずしも中央値に近いわけではありません。現在、一世帯(2人以上世帯)あたりの金融資産の平均は1,758万円ですが、中央値は715万円です。つまり、999世帯中500世帯目は715万円くらい持っています。少数の大金持ちが平均を釣り上げているのです。「平均が普通ではない」ことは給与水準の統計を見るときにも意識してください。
率(達成率・増減率)
成果目標を設定するときに、よく到達目標として前期比120%のように数値基準を設定します。また実績を図る場合においても同様です。達成度を判定するとき、一億円の目標に対し実績一億二千万円なら120%達成ですが、一千万円の目標でも一千二百万円売り上げれば120%達成です。絶対値や絶対額、目標の難易度を意識していないと、達成度だけでは真の貢献度は図れません。
同様のことが賃上げにも言えます。平均所定内賃金32万円の会社が4.0%賃上げすると12,800円、25万円の会社が4.0%賃上げすると10,000円です。賃金水準の低い会社が大手並みの賃上げ率を続けても、水準の格差は縮まりません。パーセンテージのマジックには注意が必要です。
比較できるもの同士で比較する
所定労働時間に対して支払われる「所定内賃金」と、定額残業手当を含めた「毎月決まって支払われる給与」を比較することは意味がありません。それにもかかわらず、固定残業代を含めた月額賃金を示して自社の採用初任給の高さをアピールする会社があります。採用初任給は所定内賃金で比較されるべきです。統計上の定義が違うものを比較して賃金水準を高く見せることは、会社の信頼低下につながるかもしれません。
所長 大槻 幸雄