コンサルティングの現場においてよく見かける賞与の個別支給額決定方法に、「算定基礎額×評価に応じた支給率(乗数)」というものがあります。
(例)SABCD 5段階評価の場合
<評価> S:1.5倍、A:1.2倍、B:1.0倍、C:0.8倍、D:0.5倍
<算定基礎額> 「基本給のみ」、「基本給+役職手当(+職務手当)」など
この方法の場合、平均的な評語Bの社員を基準に優秀社員(評語S、A)へ増額支給できる一方、頑張りが足りなかった社員(評語C、D)はそれなりの支給額に抑えることができるメリットがあります。
しかし、次のようなデメリットもあるのです。
1.評語SやAが多く出現すると、賞与総原資が想定以上に膨らんでしまう
2.個人別の賞与支給額が、算定基礎額の大小で決まってしまう
3.ベースアップで算定基礎額が増えると、ただちに賞与支給額にも影響する
たしかに、基本給が高い社員はこれまでの活躍(成果)が認められて昇給し、現在の金額になったのですから、賞与の算定基礎として用いることには合理性があるように思うでしょう。
しかし、「基本給が高い社員は、賞与の算定期間において必ず活躍する社員だ」と言い切れるのでしょうか。賞与の算定期間中に限って言えば、基本給が高い社員であっても思うように力を発揮できず、成果をあげられないことはありますし、反対に、基本給が低い社員であっても日々の努力が実を結び、期待以上の成果をあげることも決して珍しくありません。
このような場合、基本給をベースに支給率を乗じる支給方法だと、どこまでいっても基本給の大小で賞与支給額が決まってしまうことから、絶対額が低い社員(下位等級者)ほど賞与支給額が大きく増えるチャンスを得られず、絶対額の高い社員(上位等級者)は評価結果が低調であってもそれなりの賞与支給が約束されます。これでは成長著しい下位等級者がやる気を失い、上位等級者は低位安定で満足するような空気が社内に蔓延しかねません。賞与支給額の決定において、基本給の影響は極力抑えるべきなのです。
当社では、次のような個別支給額決定方法をお勧めしています。
「個別支給額=(基本給比例分+成績比例分)×出勤係数」
※基本給比例分=各自の基本給×●●%(または●ヵ月分)
※成績比例分、出勤係数の詳細は、次回のコラムでご説明します
ここで「基本給の影響を抑制すべきと言いながら、なぜ基本給比例分という項目が存在するのか?」と疑問に思う方がいることでしょう。「賞与は『社員への利益還元』が最大の目的なのだから、いっそのこと成績比例分100%でも良いのではないか」、とお考えの方もいるかもしれません。
しかし、住宅や教育等のローン返済に賞与の一部を充てる人も少なくないなど、賞与をもらう側としては「生活給」として認識しているところがあります。また、役員のように相応の報酬水準にあるのならいざ知らず、給与水準がさほど高くない社員にとっては、賞与額が0か100かのように決まるというのも不安要素が大き過ぎるのです。
そこで個人別支給額のうち、安定支給分(基本給比例分)を設けることで、過度な不安は払拭します。ただし、基本給比例分の割合は全体の50%以下に設定し、支給額に大きく影響させないようにすることが不可欠です。
次回のコラムは、成績比例分の決定方法についてお話しします(続)。
チーフコンサルタント 髙橋 智之
※続コラム【2025年1月25日掲載】賞与の個別支給額決定方法を考える(その2)