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「5年後に迫る『正社員の最低賃金25万円』を見据えたベアを行っていますか」

 先日、今期春闘の第1回集計結果が公表されましたが、全体平均で17,828円・5.46%と昨年同時期を上回りました(昨年同時期比1,359円増・0.18ポイント増)。このうち300人未満の中小企業は14,320円・5.09%(同2,408円増・0.67ポイント増)と、この時期としては33年ぶりの5%超となりました。また、賃上げ分(ベア分)が明確にわかる企業では、ベア分が全体平均で12,571円・3.84%(同1,064円増・0.14%増)、300人未満の中小企業で10,286円・3.62%(同1,898円増・0.64%増)となっています。
 3年ぐらい前までの妥結状況を考えれば、人手不足の折、今回の賃上げは大幅な引上げと言えますが、今後、中小企業が賃上げを検討する上で視野に入れなければならないのは「最低賃金への対応」です。最低賃金は時給で表されるため、得てしてパート・アルバイトの給料に目が向きやすいのですが、当然に正社員もその対象となります。
 岸田前総理は、2030年代半ばまでの最低賃金 全国平均1,500円到達を目標としていましたが、石破総理はこれをさらに早めた2020年代での到達を目指すと表明しました。2024年10月、最低賃金は全国平均1,055円と前年度比51円引上げられましたが、2029年までの5年間であと445円引上げるということは、単純計算で年89円ペースの引上げが必要になります。これを月額に換算すると、所定労働時間が月168時間の会社であれば14,952円(@89円×168時間)に相当し、5年間で合計74,760円の引上げとなります。このとき、最低賃金の月額は252,000円(@1,500円×168時間)に到達しますが、もう5年後に迫っているのです。25万円と聞くと、現在の大手企業における大卒初任給の金額イメージかもしれませんが、あと5年後には中卒や高卒でも25万円を提示しなければならなくなるのです。
 また、これは採用初任給に限った話ではなく、もちろん既存社員にも適用されます。連合300人未満の中小企業の所定内給与額が平均25~26万円ですので、多くの中小企業で25万円を下回る社員が存在しているのが実情です。5年間のうちに、この社員たちも全員25万円をクリアしなければならないのですから、初任給だけを引上げて対応すれば済むということではなく、ベースアップが絶対に必要なのです。
 繰り返しとなりますが、「正社員の最低賃金25万円時代」は、早くて5年、遅くとも10年以内にほぼ確実に到来します。皆さんの会社では、このことを認識できていますでしょうか。これを前提に、5年後、10年後を見据えたベースアップを実施できていますでしょうか。また、65歳定年延長が遠からず義務化されるであろうことなども踏まえ、中長期的に賃金カーブの見直しを検討・実施しているでしょうか。
 厳しいことを言うようですが、「今年だけ大幅なベースアップを行って乗り切れればOK」ではないのです。向こう5年間、毎年約15,000円のベースアップを行うためには、十分な原資が必要となります。その原資をどのように調達するか考えた場合、従前と変わらない経営スタイルの延長では、金額規模、スピードともに追い付かないことでしょう。まさに、抜本的・コペルニクス的な事業戦略の転換が欠かせません。このような危機感のもと、今年、そして来年以降の賃上げを決定していただきたいと思います。
チーフコンサルタント 髙橋 智之

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