今月のコラムでは最低賃金が所定内労働時間の違いによって月の支給額にどれほどの影響を与えるかについて考察します。具体例として、大阪府と沖縄県を取り上げ、高卒初任給を例にして実際の月の必要額を算定してみましょう。
<大阪府と沖縄県の最低賃金>
まず、大阪府と沖縄県の最低賃金を確認しましょう。2024年に改定された最低賃金は、大阪府が1,114円、沖縄県が952円です。この差は、地域の経済状況や生活費の違いを反映しています。これを月額に換算し、所定内労働時間が160時間の場合と、理論上の上限となる173.3時間の場合とに分けて、比較してみましょう。
<所定内労働時間の違いによる影響>
・大阪府: 160.0時間: 1,114円 × 160.0時間 = 178,240円
173.3時間: 1,114円 × 173.3時間 = 193,146円
・沖縄県: 160.0時間: 952円 × 160.0時間 = 152,320円
173.3時間: 952円 × 173.3時間 = 164,762円
このように、所定内労働時間が増えることで、月の支給額も増加します。飲食・宿泊サービス業などでは、所定内労働時間を理論上の上限値173.3に設定している会社も多く、労働時間の長い会社ほど、月額給与水準も最低賃金の影響を大きく受けることになります。
<今後の賃金改定に向けた準備>
今年も最低賃金は10月1日前後に改定されますが、全国平均で89円の引き上げが見込まれています。これは過去に例のない大幅な引き上げ額です。政府はあと5年で全国平均1,500円を目指す方針を掲げていますが、現在の全国平均最低賃金は1,055円。1,500円に達するまでにはあと445円の引き上げが必要ですので、これを5年で達成するためには毎年平均89円の引き上げが必要となるのです。
この予測通りに引き上げられたら、所定内労働時間を働いたことに対する給与(月額)は次のように跳ね上がります。
・大阪府: 160.0時間: 1,203円 × 160.0時間 = 192,480円
173.3時間: 1,203円 × 173.3時間 = 208,480円
・沖縄県: 160.0時間: 1,041円 × 160.0時間 = 166,560円
173.3時間: 1,041円 × 173.3時間 = 180,406円
<高卒初任給と最低賃金>
次に、高卒初任給と最低賃金のバランスをみてみましょう。府県の人事委員会によれば、2024年の大阪府の高卒初任給は188,475円です。所定内労働時間が160.0時間の会社でも、10月には高卒初任給が最低賃金ベースを下回る会社が増えることでしょう。また、沖縄県の2024年の高卒初任給は169,210円です。
沖縄県でも、所定内労働時間が173時間に達するサービス業などでは、最低賃金ベースを下回る可能性が高まっています。
<会社として準備すること>
経営者や人事担当者は、所定内労働時間の設定が給与水準に与える影響を十分に考慮する必要があります。所定内労働時間が長い会社では、従業員の健康やワークライフバランスへの影響だけでなく、最低賃金の上昇による基本給月額への影響が非常に大きくなることにも注意してください。
今春の賃上げが不十分だと、10月の最低賃金改定時に再度大幅なベースアップを検討しなければならなくなります。最低賃金と所定内労働時間の違いが、月の支給額に与える影響は会社ごとに大きく異なりますが、所定内労働時間の長い会社であれば、今後は労働時間を短縮することで実質的な時給を高めようとする努力も大切です。
所長 大槻 幸雄