03-3953-6761

「人材の確保・定着と生産性向上を目指した福利厚生制度の充実を」

 最近、賃上げや採用初任給の相談の中で、「賃上げに加え、福利厚生も充実させることで、採用競争で他社よりも優位に立ちたい」とお話しされる経営者が多いと感じます。
 昔からある制度で、現在も導入企業が比較的多い制度に、借り上げ社宅制度や社内食堂があります。
 借り上げ社宅制度:
 会社が契約者となって物件を借り、従業員からは近隣の賃貸相場よりも低額の利用料を徴収するもの。
 
 社内食堂:
 自社や委託業者等が食堂を運営し、従業員が手頃な値段で食事をとれるようにするもの。
 また、食堂施設がない場合は昼食代の補助を行う企業も多い。
 
 これらと似たようなものに住宅手当や食事手当があります。しかし、手当として支給した場合には賃金となるため、税・社会保険の対象となり、会社と従業員双方の負担が増えます。一方、借り上げ社宅制度や社内食堂の場合は費用や料金を徴収する形ですので、原則として税・社会保険の対象にはなりません。
(例えば家賃や食事代のほぼ全額を会社負担とするなど、従業員の負担が著しく低いような場合は現物給与として扱い、税・社会保険の対象となります)。
 また、ここ数年で導入企業が増えている制度に「奨学金の返還支援(代理返還)制度」があります。
 奨学金の返還支援(代理返還)制度:
 従業員の奨学金返還残額を、企業が奨学金支給元(日本学生支援機構)に直接返還する制度
 日本学生支援機構によると、現在、昼間部に通う大学生の約半数が奨学金を受給しており、就職後の奨学金返済は大きな負担となっています。これを企業が従業員に代わって返還することで、従業員の負担を金銭面と心理面から軽減することができます。代理返還の場合、賃金に上乗せして従業員に支給しないため、税・社会保険の対象にはなりません。
 ここで取り上げた3つの制度は、いずれも労使双方の負担を抑えつつ、従業員の実質的な手取り額を増やせるとして、採用戦略上のメリットがあります。
 その一方で、対象者が限定されるため、対象外となった従業員に不公平感が生じるデメリットもあります。
 経営戦略および採用戦略の観点において、全員を対象とする福利厚生制度で企業が最も力を入れるべきは、「教育訓練、研修」です。
 厚生労働省「就労条件総合調査(令和3年)」によると、常用労働者1人の1カ月あたりの労働費用総額408,140円のうち、教育訓練費はわずか670円にすぎず、しかも調査の回を重ねるごとに金額が減少しているというのが日本企業の現状です。
 従業員一人ひとりの能力を高め、生産性を向上させ続けなければ企業が発展せず、賃上げはもとより、福利厚生費の原資も捻出が危ぶまれます。自身の成長が実感できる職場は、とりわけ若年層を惹きつけ、ひいては人材の定着へと繋がります。ぜひ人への投資を、継続的に実行する企業を目指していただきたいと思います。
チーフコンサルタント 髙橋 智之

 < ブログの紹介>