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相対評価が『仕事の質』を高める

コンサルティングや評価者研修等の場において、「評価には絶対評価と相対評価があるが、どちらが適切な方法なのでしょうか?」というようなご質問をしばしば受けます。ここでいう絶対評価とは「90点以上を採ったら5段階評価の5を与える」等の「到達度評価」とも呼ばれるもので、近年の公立小・中学校では絶対評価が採用されています。したがって、理論上は全員が5を採ることもあり得ます。絶対評価のメリットは、基準を超えたか否かが評価のポイントであるため、誰にでも分かりやすいところでしょう。

 

では、絶対評価さえ続けていれば、社員の「仕事の質」は上がるのでしょうか。

 

私はよく、オリンピックに例えてこんな話をします。水泳競技では、日本水泳連盟によって設定された「派遣標準記録」をクリアしなければ、日本代表に選ばれません。これが言わば絶対評価における(到達)基準であり、選手たちはこの記録をクリアするよう努力します。そして見事に派遣標準記録を上回れば、オリンピック出場が「現実味を帯びて」きます。

 

ここで「現実味を帯びる」と表現を留めたのには理由があり、実際には記録をクリアした選手の中から最もタイムの良かった選手だけを代表に選出するなど、最終的には相対評価が入るからなのです。相対評価とは、集団の中で成績を比較し、より優れたものから順位付け(序列付け)をして評価するものです。

 

これがもしも、タイムをクリアした人すべてを日本代表に選出したらどうなるでしょうか。皆、派遣標準記録をクリアしているのですから、選手の立場からすると納得感は高いのかもしれません。しかし、これで優秀な選手たちは、本当に満足するのでしょうか。また、選手個人や水泳競技のレベル向上に繋がるのでしょうか。

 

言うまでもなく、選手にとってオリンピック出場は通過点でしかなく、金、銀、銅のメダル獲得が最終目標です。つまり、ここでも最後は相対評価になるのです。そしてメダルを獲った選手たちが素晴らしい記録を出すと、自国の派遣標準記録のハードルを上げなければ次回のオリンピックでメダルを獲れないとして、結果的に水泳競技全体の質やレベルの向上に繋がるのです。

 

このように、評価(価値判断)の本質とはまさに比較することであり、人は何かと何かを比べることで物事の価値を判断しています。したがって、仕事における評価においても「何が評価(価値判断)の基準となるのか」、これを評価者は認識しておかなければなりません。

 

その上で、適度な競争環境が社員の仕事の質を上げ、そのスピードをより加速させます。これこそが、成績評価制度において私たちが相対評価を推奨する、大きな理由なのです。