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『気にかけられている安心感』が部下定着への第一歩~

 部下の定着やエンゲージメント向上を語る上で欠かせないのが、直属上司との関係性です。生産性の高い一体感のあるチームは、例外なく上司とのリレーションシップが良好です。部下は、日頃から自分に関心を寄せてくれている上司を信頼します。仮に厳しい言葉を投げかけられても、それが成長や幸せを願う姿勢から発されていると感じられれば、不信感には繋がりません。
 「社員とその家族の幸せを追求すること」は、近年注目されている経営理念ですが、それを体現する上司の存在は、組織の生産性を大きく押し上げます。反対に、業績や数字のみを追いかけ、日々の努力や姿勢への関心が薄い上司は、部下からの信頼を得ることは難しくなります。
 人事評価制度においても、日頃からの声掛けや気遣いがあるかどうかが、納得感に直結します。たとえば、忙しい業務の合間にも「最近、資料作成の精度が上がってきたね」といった具体的なフィードバックがあると、部下は自分の仕事がきちんと見られていると感じ、安心感が生まれます。また、「先週の会議、あの場面で的確にフォローしてくれて助かったよ」など、実際の行動や場面に紐づいた言葉は、部下にとって大きな励みとなります。加えて、残業が続いている部下に「無理しすぎていない?」と体調面への気遣いを見せることも、信頼関係の醸成につながり、育成の観点からも効果的です。
 中小企業では課長職がプレイングマネージャーとしての役割を担うことが一般的であり、自らが営業や業務の主力となっている場合も少なくありません。日々の成果を追い求める中で、部下の働きぶりに目を配る余裕が十分に取れないこともあり、ある程度いたし方ない面があるのも事実です。現場の実情を知る者として、その苦労は理解できます。
 しかしながら、そのままの状態を放置すれば、部下との信頼関係が深まらず、結果として人材の育成や定着に悪影響を及ぼす可能性があります。たとえ限られた時間であっても、何気ない一言やちょっとした声掛けを通して「関心を持っている」という姿勢を示すことは信頼構築の第一歩となります。マネージャー自身の負担を最小限にしつつ、関係性を深める工夫が求められているのです。
 部下に対しては、惜しみない支援の姿勢を示し、「相談しやすい」空気を作ることが大切です。小さな不安や改善提案が躊躇なく口にできる――んな職場は、前向きに挑戦できる場でもあります。そして、こうした上司が育っていく組織を築くことは、経営者の使命です。理想のリーダー像は、継続的な対話と環境づくりの中で育まれるもの。そうした人材こそが、企業の未来を拓いていくのです。