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来年の賃上げに向けた早めの検討を

 10月以降、各都道府県で最低賃金が改定され始めましたが、それに伴うように、経営者の皆様から「来年の賃上げ(ベースアップ)にどのように臨むべきか」とのご相談も入り始めました。
 昨今、経営者が賃上げのご相談に至るきっかけといえば、高騰する新卒採用初任給相場への対応が定番なのですが、今回寄せられた複数の企業の場合は、まさに「最低賃金への対応」に迫られたものでした。私共も、セミナー等では「パート社員だけでなく、正社員も最低賃金に抵触しないかどうかご確認ください」と注意を呼びかけております。しかし、実際にそのような状況になってからご相談を受けるケースは滅多になかったため、同様の事案が広がりつつあるのではないかと危惧しています。
 今回ご相談いただいた会社には、次のような共通した背景がありました。
 1.採用競争の激化を受け、新卒採用はここ何年も行っていない(募集をかけていない)。
 2.新卒採用初任給相場を意識したベースアップの必要性を感じてこなかったため、毎年、定期昇給のみ実施。もしくは、特別昇給で多少のベースアップ相当額を加算。
 3.パート社員の時給は最低賃金をチェックして対応していたなか、フルタイムで働くパート社員の支給額が月いくらぐらいになるか試算したところ、その金額の高さに驚き、初めて正社員の最低賃金を確認した。
 最低賃金は、3年前の2022年と比べても、全国平均で160円上昇しています。月平均所定労働時間が168時間の会社であれば、月給に換算すると26,880円に相当しますので、定期昇給だけではカバーしきれないのも無理はありません。したがって、3年前には最低賃金をクリアしていた正社員や同時期にパート社員から正社員に登用した社員などが、今年の最低賃金の改定で引っかかってしまう事態が生じてくるのです。
 この会社が東京都内の会社であれば@1,226円×168時間=205,968円と、205,000円を超える金額がすでに最低賃金ラインになっています。さらに言えば、政府は2020年代のうちに全国平均1,500円到達を目標に掲げていますので、少なくともこの先4年間は大幅な引上げが続く見通しです。
 今回ご相談いただいたケースでは、最低賃金割れを未然に防ぐことができました。しかし、未然に防げたとはいえ、もしかしたら最低賃金に引っかかりそうだった社員は、自分が最低賃金ギリギリであることに気付いており、この会社で働き続けることに不安を感じていたかもしれません。もしそうであったならば、人材の確保・定着に苦しむ会社として痛恨の極みです。
 物価高騰が続き、価格転嫁も思うように進まず厳しい状況下に置かれている企業も少なくないと思います。しかし、ともに働いてくれる社員がいなければ成すことも成せません。生産性を向上させ、いかにして賃上げ原資を確保するか。来年の賃上げに向け、早めに検討を開始していただきたいと思います。