評価制度を「人を育てる器」として整備し、管理職育成の基盤を築くことは、企業にとって欠かせない営みです。制度の設計や着眼点の整理を通じて、評価が単なる査定ではなく、育成のための仕組みとして機能することを前回までに確認してきました。では、その先にある「評価の本質」とは何でしょうか。私はそれを「未来への投資」として捉えるべきだと考えています。
賞与は利益の分配であり、過去の成果に対する対価です。しかし評価は、社員の未来を方向づけるものです。評価を通じて「あなたの成長を期待している」「来期はこういう役割を担ってほしい」と伝えることは、社員にとって自分の未来を描くきっかけになります。人は、自分の存在が認められ、未来に期待されていると感じるときにこそ生き生きと働けるものです。評価はそのメッセージを届ける場であり、社員の幸福やウェルビーイングを支える一端でもあるのです。
この時期は賞与の支給が行われる会社も多いでしょう。年末賞与の支給時期は、半年の評価対象期間にとどまらず、この一年間の成果を振り返る節目ともなります。社員が「自分はどう評価されたのか」をより強く意識する瞬間でもあるのです。だからこそ、このタイミングで経営者からの言葉を添えることが重要になります。単なる支給明細の通知ではなく、「あなたの努力を認めている」「来期はこういう役割を期待している」といった未来へのメッセージをしっかり伝えることで、社員の目の色が変わり、次の一年に向けて覚醒していくのです。賞与の場面は、評価を未来への投資として社員に語りかける絶好の機会だといえましょう。
人手不足が続く中、省人化を前提とした事業展開が避けられない会社も多いと思われます。しかしそれは単なる人員削減ではなく、業務の効率化や付加価値の高い仕事へのシフトを意味します。そのためには、社員一人ひとりが「自分で考えて行動に移せる」ようになることが不可欠。評価を通じて役割を明確にし、成長の方向性を示すことができれば、省人化の時代にあっても組織は競争力を保ち続けることができます。
社員の納得感を得るには、経営サイドからの一方的なメッセージだけでは不十分です。会社がどのような方向に進もうとしているのか、その中で社員がどんな役割を果たすのかを、ストーリーとして語ることが必要になります。評価とは、等級別に評語(SABCD)を並べるためのものではなく、社員と会社の未来をつなぐ言葉です。経営者が評価を「未来への人的投資」の流れの中で語ることで、社員は自らの成長を会社の発展と重ね合わせ、未来に目を向けて働くことができるのです。
評価制度は、単なる制度論や運用論を超えて、社員の幸福と会社の持続的成長をつなぐものであることが大事です。年末の今こそ、給与と評価の役割を改めて問い直し、来期に向けて「人を育てる会社」としての姿勢を鮮明にする好機なのです。社員がはっとする“気づき”を得て、自分で考え、行動に移し、目の色を変えて仕事に向き合うようになる。こうした繰り返しが会社の成長の礎であり、会社の未来を支える原動力となることでしょう。
これは、大企業だけの話ではありません。むしろ中小企業だからこそ、経営者の言葉が社員に直接届き、行動を変える力を持つのです。賞与の場面でのひと言、評価面談でのひと言が、社員の覚醒につながり、会社全体の成長を後押しします。小さな取り組みの積み重ねが、確実に未来を変えるのです。