1月下旬にスタートした春季労使交渉の主要企業の回答日が近づいてきました。大手主要メーカーの労働組合は2月17日に要求書を提出しましたが、軒並み前年度を下回る要求水準となっています。
業種別にみると自動車では、マツダ、ホンダ、三菱自動車がベアを見送り、ベア分の有無を公表していないトヨタ、日産でも賃上げ要求額は前年を下回っています。日立、パナソニックなど電機の各組合は、電機連合の統一基準に沿って賃金改善分2,000円を要求、昨年(3,000円)より水準を引き下げての申入れとなりました。
賃上げ要求は、定期昇給分(賃金制度維持分)とベースアップ分(賃金改善分)に区別して考えるべきものですが、今年の状況を見ると、賃金改善分を要求した会社でも、ベアではなく基本給以外の手当の充実を要求するなど、組合ごとに対応は異なっているようです。
主要企業の回答のヤマ場は3月16日から18日であり、この結果が中小企業へも波及していくこととなりますが、果たして今年の賃上げ率はどうなるでしょうか?特にコロナショックの影響が大きい業種での中小企業の動向が気になるところです。
賃金管理研究所では、今年の賃上げを主要企業1.9%、中小企業1.7%と予測しました。
労使ともに「事業の継続」と「雇用の維持」を掲げるなど緊迫感ある中で始まった春季労使交渉ではありますが、最終的に定期昇給分(賃金カーブ維持分)を守る会社が大半を占めることとなるでしょう。
昨年度の連合集計をみると、中小企業の賃上げ実績は1.81%。コロナ禍が広がる中にあっても定昇相当分を超える給与改定が行われていたことがわかります。今なお先の見通しが立てにくい状況が続いていますが、こうした時こそまずルール通りの昇給運用を着実に行って賃金カーブを維持するとともに、社員のモチベーションを低下させないよう、十分に配慮しなければなりません。
コロナショックの業績への影響は業種によって、また会社によってもさまざまであり、直近での緊急事態宣言の影響もあって、飲食サービス業や宿泊業等では定期昇給の凍結または見送りをする企業がでるものと思われます。しかし、景気回復期に優秀な社員から流出してしまうことのないよう、定期昇給を正しく実施するとともに、社員が安心して仕事に臨める環境を整えることを、どの業種においても最優先としてほしいものです。
業績が堅調な企業であれば、この機会にベースアップや賞与増額を検討されると良いでしょう。一方、わが社の賃金水準が低いと自認されている会社で、今なお人材確保に苦戦されているようであれば、業績要因にかかわらず計画的かつ段階的なベースアップの実施をご検討ください。
所長 大槻 幸雄