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「自社の賃金水準・賃金バランスと賃上げ戦略」

 先月に引き続き、今春の賃上げを取り上げます。前回は、大局的な見地から世間動向を概観しましたが、今回は個々の会社が中期的な賃金戦略を捉える視点からお話しましょう。
 
 年末年始よりオミクロン株の感染拡大により、全国34都道府県にまん延防止重点措置が適用され、今後の景気回復に暗雲が垂れ込めてきた感があります。重症化リスクは低いと言われるものの、終息が見通せない状況の中、賃上げにも少なからず影響がありそうです。
 
 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、この2年間は人手不足のひっ迫感がやや後退したかに思われましたが、新規学卒者を始めとする労働人口の減少基調には変わりがありません。(12月現在、完全失業者数182万人、完全失業率2.8%であり、世界的に見てもいまだ低水準です。)新卒採用を継続されている会社、人員確保が急務である会社では、採用および育成に対する自社の考え方を明確にされ、賃金水準にも十分配慮して対応することが望まれます。
 
 賃金水準については、2014年以降の最低賃金の大幅な引上げ、初任給相場の上昇などを捉えて、この8年ほどの間にかなり人件費が膨らんだとの印象を持たれている経営者も多いことと思います。実際、パート社員を多く抱える小売業、飲食サービス業等においては、人件費の負担が明らかに増加したという企業も少なくありません。
 
 ただし、厚生労働省「毎月勤労統計調査」を見るかぎり、常用雇用者の所定内賃金(2015年=100)は、1998年の108.4に対し、2021年12月現在で102.0に過ぎません。第3次平成不況前のピークに対して94.1%しか戻っていないことになります。最低賃金や採用初任給が上昇しても非正規の割合が増加したこと、そして賃金カーブの上昇を抑えるように運用されてきたことが、平均賃金がなかなか増加しない要因といえましょう。
 
 賃金カーブの抑制といっても、必ずしもベースダウンをしたわけではなく、昇格運用を厳しくすることで全体としての賃金上昇が抑えられてきたのです。その結果、世代間に大きな歪みを抱えるようになった会社が少なくありません。デフレの長期化に加え、大規模な自然災害やリーマンショックなど、舵取りの難しい時代を経て社員相互バランスが崩れ、特に中途採用者や管理職手前の指導職層(主任・係長)などの落込みが大きい会社は様々な業種に散見されるようになりました。
 
 管理職になれば所定内賃金の水準は、管理職手当の付与等により高くなるものの、一般社員(非管理職)のままでは賃金水準が一向に伸びないという会社も増えているようです。将来を託すべき優秀社員を定着させるには、将来の昇給が見通せる昇給ルールが確立され、正しく運用されていなければなりません。特定層の落込みが目立つようであれば、バランス是正のために優先的に賃上げ原資を手当することも検討してください。
 
 自社の賃金水準は、果たして高いのか、低いのか? できれば、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の都道府県別・業種別の賃金統計などで、自社水準をチェックされることをお勧めします。賃金水準が世間並み以下なら、優秀な人材が定着する道理はありません。1月中旬にお送りした資料「全国都道府県別モデル本給表」も有効にご活用いただき、自社賃金制度の現状を確認のうえ、計画的な賃金水準引き上げ(ベア)を視野に、今後の賃金戦略を策定されるようお願いします。
所長 大槻 幸雄

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